その夜、交流団の懇親会が行われた。
好子ら村の女は懇親会の準備やまかないについた。
その喧騒たる宴会の最中に鈴木と好子は二人で会場からこっそりと抜け出した。
和歌山団が消えた鈴木を捜し始める一方で宴の騒ぎは大きくなっていた。
「伐倒で勝った言うていきがんな。鈴木とやらがなんぼ鮎釣りが上手い言うたちおらの村の岡田にゃかなわんがよ」
高知団の酔っぱらいが言い張った。
「どうせ伐倒といっしょで口だけやっしょ。またやられたいんか」
和歌山団の酔っぱらいも言い返す。
他の団員が止めに入るが双方の言い合いは収まらなかった。
団長も巻き込んで結局鈴木と岡田の鮎釣り試合が行われることになった。
翌朝、それを知った鈴木はとまどったが受けざるを得なかった。
一方の岡田も団長らから頼まれ渋々受諾した。
もちろん、岡田には自信があった。
鈴木などと言う若造に、万が一も負けるとは思っていなかった。
試合は最終日の午前に行われた。
三時間のうちに多く鮎を釣った方の勝ちだ。
試合開始。
のっけから岡田の釣法に鈴木と和歌山団は一様に驚く。
岡田の放った囮鮎は、流れの強い瀬をグングンと上って上り詰めたところでギラリと魚体が返って次々と鮎が掛かった。
和歌山団には、岡田の釣っている場所だけ川が反対に流れているのではないのかと言う者までいた。
岡田流の泳がせ釣りだった。
岡田が入れ掛かりの最中に、鈴木はあっさりと竿をたたんだ。
負けを認めて試合を放棄した。
「全然、ワイと格がちがうっしょ」
鈴木はさらりと言った。
その二ヶ月後、鈴木は再び一人で馬路村を訪れる。
岡田に泳がせ釣りを教えてもらうためだった。
「鈴木には天性の素質があるがよ。おらの泳がせ釣りの伝承者は鈴木しかおらんがよね」
岡田はそんなことを言い始めた。
岡田は自らの釣技の全てを鈴木に教えた。
鈴木はわずか一週間ほどで岡田から泳がせ釣りの釣技を教わると和歌山に戻った。
南好子が鈴木を追って和歌山へ渡ったのは、それから一月後のことだ。
親の反対を押し切っての行動であり、好子が鈴木の子を妊っていると言う噂が村では広がっていた。
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