慎也は日に日に痩せ細り、仕事も鮎釣りも手につかなくなった。
「オレもう駄目かもしれん・・・・・・」
電話の向こうで慎也の弱々しい声が隆人に届いた。
すぐに大学病院の看護士が電話を替わる。
看護士の話では、慎也はナツメグを大量に摂取して自殺を図り病院に搬送されたと言うことだ。
隆人は直ぐに病院に向かった。
病室には医師と看護士の他に会社の寮のおばさんがいた。
慎也は眠ったままだ。
隆人は寮のおばさんに事情を聞いた。
「幻聴が聞こえる言うて洗面所ですごく吐いてな」
「最近なんか変わったことは無かったですか?」
隆人の問いにおばさんは思い出す表情で首を捻った。
「さして変わったことは無かったけど、二、三日前に若い女の人から電話があったぐらいかなあ。夜の八時頃やったわ。先月ぐらいまでは毎晩かかってきよったけど最近は全然掛かってきていなくて久しぶりの電話やったわ。前かけてきてた人と同じ人の声やったと思うけど」
雅に違いない。
その電話の内容が慎也にこれほどまでのダメージを与えたのだ。
いったい雅は慎也に何を言ったのだろう。
医師は隆人を部屋の外に誘った。
「本人が、どうしても杉原さんに電話をしてくれと携帯を差し出すもんですから」
隆人は慎也の境遇について医師に話をした。
「そうですか。まあ命に別状はありませんが、未だ脈拍が通常の二倍あり、まれに脳障害が残る場合もあります。本人が言った量が本当なら中毒症状は明日にでも直るはずです。とにかく、これが直っても一度心療内科の方に来られた方が良いと思います」
「心療内科?」
隆人は聞き慣れない言葉に首をひねった。
「ええ、慎也さんは精神的にお疲れになっていらっしゃるようですから一度心療内科の方で診てもらった方がいいと思います」
「先生、まさか慎也の奴・・・・・・」
「とにかく診てもらった方が良いと思います」
医者の言うとおりに慎也の中毒症状は翌日には収まった。
が慎也はその後、精神疾患で一年近くも通院生活を送らなければならないことになる。
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